新型コロナ感染拡大から考える今後の健康づくりで必要な力とは!?

2020年初頭から拡大した新型コロナウイルス感染症。当時、呼吸系疾患の発症による重症化の危険性や感染拡大防止の観点から緊急事態宣言が発出された。それに伴い、社会活動縮小し、在宅時間およびオンライン利用が増加した。最近は、予防法の知識やワクチン接種に加え、治療法や治療薬の開発によって、感染による死や重症化は激減したが、二次被害も具体的に表面化しつつある。本稿では、新型コロナウイルスの感染拡大による健康の二次被害から、今後の健康づくりで必要な力について筆者の考えをまとめた。

代表的な健康の二次被害として、在宅時間の増加に伴う身体活動量の減少、いわば歩数の減少がある。感覚的に『運動量が減った』と誰もが口を揃えるが、実際、緊急事態宣言期間中の歩数は、男女ともに約1100歩から1200歩減少したと報告されている1)。さらに、宣言解除後も、身体活動量が減少したままで、動かない人が増加してしまったとも報告されている2)。元来、機械化や便利な物の開発によって、日本人の平均歩数は減少を示していたが3)、今回の感染拡大により日本人の身体活動量の減少はさらに加速した。事実、勤務者は、テレワークや在宅勤務などの新しい働き方が普及し、通勤や訪問などの機会減少に伴って身体活動量が減少していることは容易に想像が可能である。さらには、運動・スポーツ教室を中心としたイベントも中止となり、結果的にあらゆる場面で身体を動かす機会や量が減っている。つまり、遊びや地域のイベントも、日本人の身体活動量を担保する上で、大きな役割を担っている無視できない活動であったと思い返される。

身体活動量以外の健康の二次被害として、体の不調がある。「テレワーク開始後、身体に不調を感じるか」を約1,000名に対して調査したオムロンヘルスケア株式会社の報告では、約3割が体の不調を感じたと回答している4)。具体的な不調として、肩こりが約70%、精神的なストレスが60%、腰痛、姿勢、目の疲れが約50%と高値を示した。この調査結果内では、約3割は机と椅子を使用せずに仕事をしていることも顕在化した。筆者の現場の指導においてもそのようなことをいう人は多く、特に、20歳代等の社員に多い感覚があり、若い人にも問題が起きている。このように、身体活動(運動)や体の不調はもちろん、間食の摂取増加などによる食事の問題や在宅時間の長期化による精神面の悪化など様々な面での悪影響があるとされている。

さて、ここまで悪影響ばかりまとめてきたが、本当に悪いことばかりなのだろうか?例えば、アルコールを例にその影響を考えてみる。多くの人がお酒の場(飲み会)の頻度の減少を感じているはずである。飲み会の多かった営業担当を中心とした就労者や飲み会の苦手な人にとっては、ポジティブな側面も持っている。しかし、アルコールが好きな人は、会がないもの悲しさに加えて、家での飲酒量が増えた人もいる。このように、わかりやすい例として、コロナがアルコール摂取において与えた影響はいい点と悪い点があるように、コロナの影響には、光と影がある。よく考えると、運動・身体活動もコロナによって時間ができたので、自分で運動時間を確保するようになった人もいる。新しい働き方によって、子どもと遊ぶ時間が増えたなどはよく聞く声でもあり、コロナをきっかけに運動習慣を構築できた人もいる。また、食事も同様、心理的な余裕や自炊頻度の増加で、改善した人もいる。読者の中にも、改善と悪化の両面を持っている項目のある人が多いはずである。

以上のことから、平均値や全体での傾向は悪い傾向に進んでいるかもしれないが、一部は改善した人がいる一方、悪化した人もいるのである。つまり、二極化を引き起こしている可能性が否定できない。新型コロナウイルス感染症という歴史的自体は発生しないに越したことはなかったが、起きてしまったこと自体は変えられない。なければよかったという事象に対して、ネガティブな付随する側面を取り上げて煽り、対策を立てることも必要であるが、健康に近づいた側面があることも忘れてはならない。これらから考えられることとして、今後の健康づくり活動において必要なスキルは個人のヘルスリテラシーであると筆者は思う。

ヘルスリテラシーとは、「健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のこと(東京都医師会)」と定義されている。大きく変わった環境や生活習慣にうまく適応して、生活習慣を自分で改善できたヘルスリテラシーの高い人は、コロナを通して健康になった。一方で、ヘルスリテラシーの低い人は、悪化してしまったと考えられる。ヘルスリテラシーの高い人は従来から取り組んでいたとろころ、さらに取り組みを強めた一方で、低い人はさらに悪化してしまったと思われ、日本人の健康は更なる二極化をしていくことと予測している。「通勤時間が減った分、自分の身体を運動に充てよう」と思うか、「ぎりぎりまで寝て、朝ごはんを多く食べるか」は今まで、「健康への意識が高いかどうか」という本人任せの案件であった。しかし、指導者はこの部分に関与し、根底であるヘルスリテラシー教育から取り組み、体得させていくことこそが、今後の健康づくりに必要な要素である。

<参考文献>

1) Sato K, Sakata R, Murayama C, Yamaguchi M, Matsuoka Y, Kondo N. Changes in work and life patterns associated with depressive symptoms during the COVID-19 pandemic: an observational study of health app (CALO mama) users. Occup Environ Med, 78(9), 632-637, 2021.

2) 株式会社リンクアンドコミュニケーション https://www.linkncom.co.jp/news/press/379/

3) 厚生労働省. 令和元年国民健康・栄養調査報告, 2020.

4) オムロン ヘルスケア株式会社 https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2020/0428.html

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この記事を書いた人

位高 駿夫のアバター 位高 駿夫 株ハイクラス・CEO

”健康”と”勝利”に役立つスポーツ健康科学情報を配信します【経歴】株ハイクラスCEO/博士(スポーツ健康科学)/健康運動指導士/第一種衛生管理者/ホームヘルパー2級

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