立位姿勢で前方へ手を伸ばすことで柔軟性を測定するのが、ファンクショナルリーチテストです。
このテストは、おもに高齢者の転倒リスク、バランス能力を評価する方法です。
長座体前屈にに代わる柔軟性の評価として、簡易に実施できるため、活用されています。
この記事ではファンクショナルリーチテストの意味や測定方法、評価の目安について解説します。
ファンクショナルリーチテストとは
ファンクショナルリーチテスト(Functional Reach Test)は、体のバランスを崩しそうになったときに、転倒せずにバランスを回復する能力がどの程度かを測定・評価するテストです。立った姿勢で片方の腕を水平に前方に伸ばし、バランスを崩さずに(一歩足を前に踏み出さずに)何センチ腕を伸ばせるかを測定します。
バランスを保つ機能を測定、評価することにより、転倒リスクが大きいか小さいかを判定するのがファンクョナルテストの目的です。
Functional Reach Testの頭文字をとってFRTと呼ばれることもあります。
測定方法
テストを受ける人と測定する人の2人で実施します。
テストに必要なものは、壁際の環境と目印のテープ、メジャーまたは物差しの3つだけです。
壁に沿って横向きに立ち、壁側の腕を90度(水平に)持ち上げて、そのまままっすぐ前に伸ばし、指先が元の位置から何センチ前方にリーチしたかを測ります。
手順
- 壁に対して横向きに、両肩を結ぶ線が壁と直角になるように立つ
- 足を肩幅ほどに開き、つま先が前後にずれないように揃える
- 壁側の腕を水平に持ち上げて、その高さで壁に水平にテープを40cmほどの長さで貼る(手を伸ばす導線となる)
- 水平に持ち上げた腕の中指の先端の位置で壁に目印のテープを貼る
- 持ち上げた腕を、導線のテープに沿ってできるだけ前に伸ばし、中指の先端の位置で目印のテープを貼る
- 目印のテープとテープの距離を測る
記録方法
上記のテストを3回行い、2回目と3回目の結果の平均値を記録します。
実施上の注意点
- 実施中は体をひねらず、肩と肩を結ぶ線がつねに壁に90度になるように、まっすぐ前を向く
- 壁に肩や腕をもたれかけず、つねに離した状態で行う
- テストを受ける人に「足を動かさずに元の姿勢に戻れる、ギリギリまで手を伸ばしてください」と伝える
結果の解釈
ファンクショナルリーチテストの結果によって、その場でバランスを崩さずに姿勢を回復できる能力、つまり転倒を防ぐことができる能力がどれくらいかを評価できます。
評価の目安とされているのが下表の数値です。
リーチ距離 | 転倒リスク |
20cm以下 | 非常に危険 |
20~25cm | 転倒リスクが高い |
25~30cm | 平均 |
30cm以上 | 転倒リスクが低い |
また、年齢や疾患によるファンクショナルリーチテストのカットオフ値(病態識別値)として、諸研究により次のような数値が算出されています。
- 虚弱高齢者:18.5cm未満で転倒リスクが高い
- 脳卒中片麻痺患者:15cm未満で転倒リスクが高い
- パーキンソン病患者:31.75cm未満で転倒リスクが高い
年齢別、男女別の平均では、下表のような数値が報告されています[潤榎4] 。
年齢 | 男性 | 女性 |
20~40歳 | 43cm | 37cm |
41~69歳 | 38cm | 35cm |
70~87歳 | 33cm | 27cm |
参考文献:Functional reach a new clinical measure of balance.Duncan et.all.
ファンクショナルリーチテストに関する知見
ファンクショナルリーチテストに関する知見として、日本理学療法士協会の診療ガイドラインの推奨度と閉眼で行うファンクショナルリーチテストについてご紹介します。
ファンクショナルリーチテストの信頼性と妥当性
ファンクショナルリーチテストは、バランス検査、転倒リスクの測定方法として信頼性、妥当性が高いとされ、日本理学療法士協会の診療ガイドライン第1版において「推奨グレードA~B」に指定されています[潤榎5] 。functional reach test(FR)は特別な機器を必要とせずに,フィールドでも活用できるバランス検査のひとつである。認知機能低下のない地域在住高齢者における再検査信頼性が確認されており、高齢者では15.2 cm以下で転倒の危険が高くなる。 引用元:身体的虚弱(高齢者)理学療法診療ガイドライン P1008
信頼性、妥当性の高さに加えて、テスト法が簡易なことから、介護施設、高齢者施設、医療現場で、アセスメント項目として広く活用されています。
閉眼で行うファンクショナルリーチテスト
本記事では開眼で行うファンクショナルリーチテスト(FRT)をご紹介しましたが、閉眼で行うFRTも開発されています。
地域在住高齢者101名を対象とした調査では、閉眼でのFRTは加齢とともに低下するバランス能力を反映し,測定値が25.5cm未満になると転倒リスクが高くなると報告されています。また、開眼でのFRTよりも閉眼でのFRTの方が,より正確に転倒リスクを判別できると述べられています。
通所リハビリテーションサービスを利用する、自力で歩行可能な高齢者102名を対象とした調査でも、閉眼でのFRTは,下肢筋力およびバランス能力を反映する有効な指標であると報告されています。
参考文献:閉眼でのFunctional reach test(EC-FRT)は何を捉える指標なのか?
まとめ
ファンクショナルリーチテストは、高齢者や脳卒中片麻痺患者などの転倒リスクを測定するテストとして信頼性と妥当性が認められています。
テストの実施に特別な機器を必要とせず、方法も簡易なため、多くの介護施設や医療機関で実施され、活用されています。
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